大阪地方裁判所 平成8年(ワ)12436号 判決 1997年11月14日
原告(反訴被告)
粟田祐二
被告
北野昌明
被告(反訴原告)
ユーシステム株式会社
主文
一 被告北野昌明及び被告(反訴原告)ユーシステム株式会社は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金一〇一万二八八〇円及びこれに対する平成八年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)ユーシステム株式会社に対し、金一三万二〇〇〇円及びこれに対する平成八年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告(反訴被告)及び被告(反訴原告)ユーシステム株式会社のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴を通じて、これを五分し、その四を被告(反訴原告)ユーシステム株式会社及び被告北野昌明の負担とし、その余を原告(反訴被告)の負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
(本訴)
被告らは、原告に対し、連帯して金一二五万三六〇〇円及びこれに対する平成八年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(反訴)
反訴被告は、反訴原告に対し、金七四万八六二七円及びこれに対する平成八年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、信号機による交通整理の行われていない交差点で普通乗用自動車同士が衝突した事故において、各車両の所有者が、相手方車両の運転手に対し、民法七〇九条により(本訴・反訴)、運転手の使用者に対しては、民法七一五条により(本訴)、それぞれ損害の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含み、( )内に認定に供した証拠を摘示する。)
1 交通事故の発生
(一) 発生日時 平成八年一月二一日午後二時四〇分ごろ
(二) 発生場所 兵庫県西宮市松籟荘三番先交差点
(三) 関係車両1 原告(反訴被告)(以下「原告」という。)が所有し、運転する普通乗用自動車(登録番号大阪三四ち三〇四五、以下「原告車」という。)(乙第三)
(四) 関係車両2 被告(反訴原告)(以下「被告」という。)ユーシステム株式会社(以下「被告会社」という。)が所有し、被告会社の従業員である被告北野昌明(以下「被告北野」という。)が運転する普通乗用自動車(登録番号なにわ五七も六五六九、以下「被告車」という。)
(五) 態様 本件交差点において、南北に伸びる道路を北進中の原告車と東西に伸びる道路を西進中の被告車とが衝突した。
二 争点
1 責任及び過失割合
(原告の主張及び反論)
(一) 被告北野は原告車を運転中、交差点手前に一時停止の規制があるのに一時停止を怠り、交差点に進入した過失により本件事故を発生させたから、民法七〇九条により、原告が被った損害を賠償する責任がある。
(二) 被告会社は、被告北野の使用者であり、本件事故は、被告北野が被告会社の業務を執行中にその過失により発生させたものであるから、被告会社は民法七一五条により、原告が被った損害を賠償する責任がある。
(被告会社及び被告北野の主張及び反論)
(一) 原告は、本件交差点に進入するに当たり、交差道路の東側には駐車車両があって見通しが悪かったのであるから、進行方向右方を特に注意して進行する義務があり、かつ、徐行して交差点に進入すべき義務があるのにこれを怠った過失があるから、被告会社が被った損害を賠償する責任がある。
(二) 被告は本件交差点手前で徐行し、左右を確認して、交差点に進入した。
2 損害
(一) 原告の損害
(1) 原告車の修理代 一一五万三六〇〇円
(2) 弁護士費用 一〇万〇〇〇〇円
(二) 被告会社の損害
(1) 被告車の破損による損害 六八万八六二七円
被告車の修理見積もりは六八万八六二七円であり、中古車の市場価格査定基準によれば被告車の市場価格は六一万円であったところ、修理に要する時間及び代車費用等を考慮すれば、修理見積額をもって損害としても不当ではない。
(2) 弁護士費用 六万〇〇〇〇円
第三争点に対する判断
一 責任の有無及び過失割合
1 証拠(甲第一から第一〇まで、検甲第一の一から第三の三まで、乙第一の二から第四の三まで、検乙第一の一から第二の二〇まで、原告、被告北野、弁論の全趣旨)によれば、
本件事故現場は、南北に伸びる二車線の道路(以下「南北道路」という。)と東西に伸びる道路(以下「東西道路」という。)とによって形成された交差点内であって、信号機による交通整理は行われておらず、南北道路の幅員は約八メートルで、最高速度は時速四〇キロメートルに指定され、東西道路の幅員は約六メートルであって、本件交差点東詰めには一時停止すべきことが規制標識及び停止線の指示表示によって指定されていたこと、本件事故当時は南北道路の本件交差点南詰めには徐行すべき表示はなかったこと、
原告は、本件事故当日、門戸厄神の参拝を終え、臨月の妻を助手席に同乗させて、原告車を運転し、本件事故現場の南約八五メートルの地点から発進した後、時速約四〇キロメートルで北進し、本件交差点に至ったこと、当時、南北道路の両側には本件事故現場付近まで駐車車両があったこと、原告が気づいた時には被告車は原告車の横に来ていたこと、被告車との衝突後、原告はブレーキを踏み、左にハンドルを切ったこと、
被告北野は、家族と共に門戸厄神に参拝に赴くため、被告車を運転し、東西道路を西進していたところ、本件交差点手前の東西道路の南側にワンボックスカーを含め駐車車両が三台あったので、進路を右に寄せたこと、右ワンボックスカーがあったため、交差点手前の一時停止の停止線は見えなかったこと、被告北野は、一時停止をせずに本件交差点に進入したこと、
原告車と被告車は、本件交差点中央からやや北西に寄った地点付近で衝突し、原告車は、本件交差点の北西角のガードレールに当たって停止し、被告車は北西を向いて原告車とハの字型に並んで停止したこと、
本件事故により、原告車は右フロントフェンダー、右フロントホイール、右フロントドア付近等、主に右前輪付近が破損し、原告は修理代として一一五万三六〇〇円を支出したこと、被告車はフロントバンパー、左右ヘッドランプ、ボンネット、ラジエータグリル、左右フロントフェンダパネル等の破損が生じ、ボンネットは上に凸状に曲がり、その程度は正面左側より右側の方が大きいこと、修理代見積もりが合計六八万八六二七円(消費税込み)であったこと、
被告北野は、平成八年一月二二日付けで事故報告書を、同月二五日付けで自動車保険金請求書を作成し、自己の進行していた道路の交差点手前に駐車していたワゴン車を避け、その前に出た時に、スピードを出していた直進車(原告車)を発見し、急ブレーキをかけたが衝突した旨記載したこと、等の事実を認めることができる。
2 前記1の事実によれば、被告北野は、本件交差点に進入する際に、本件交差点手前には、一時停止すべきことが規制標識及び停止線の指示表示によって指定されていたのに、これを怠ったものであり、また、被告北野は、本件交差点に進入する際に徐行した旨供述するけれども、各車両の破損部位からは、衝突状況は被告車の前面が原告車の右前輪付近に衝突したと解されること、また、被告車の破損状況、被告北野の本件事故に関する報告には被告北野が一時停止ないし徐行した旨の記載がないこと等に照らせば、被告北野は、一時停止の規制のある交差点に進入する際、一時停止を怠った上、減速も十分ではなく、交差道路の左方の安全を確認しなかった過失があるといわなければならず、民法七〇九条により、原告が被った損害を賠償する責任がある。
他方、原告は、道路両側に駐車車両があって見通しが悪い交差点に進入する際、交差道路の右方に対する注意を怠った過失があるといわざるを得ず、民法七〇九条により、被告会社が被った損害を賠償する責任がある。
原告及び被告北野双方の過失を勘案すると、その割合は、原告の二、被告北野の八とするのが相当である。
3 前記1の事実及び証拠(被告北野)によれば、被告北野は、本件事故当時、一般建設業を営む被告会社の従業員であり、積算、作図、現場監督等全ての仕事を担当し、被告車をその職務遂行のため使用していたことが認められ、本件事故は、被告北野が、休日に、その私用のために原告車を運転中、被告北野の過失により発生したものであるところ、被告北野が被告車を運転していた行為は、外形上、被告会社の職務の範囲内の行為と認められるというべきであり、そうとすると、被告会社は、民法七一五条により、被告北野が原告に加えた損害につき、被告北野と共に不真正連帯債務者として責任を負うというべきである。
二 損害
1 原告の損害 一一五万三六〇〇円
前記一の事実によれば、原告車は本件事故により破損し、原告は修理費用として一一五万三六〇〇円を要したことを認めることができる。
2 被告会社の損害 六一万〇〇〇〇円
前記一の事実及び証拠(乙第四の一から三まで、被告北野、弁論の全趣旨)によれば、被告車は本件事故により破損し、修理代見積もりが合計六八万八六二七円(消費税込み)であったこと、被告車と同一の車種、年式、型の自動車の中古車価格は六一万円であること等の事実を認めることができ、右の事実によれば、被告車は経済的に修理が不能であり、被告会社は六一万円の損害を被ったものということができる。
なお、被告会社は、被告車の修理に要する時間及び代車費用等を考慮すれば、修理見積額をもって損害としても不当ではない旨主張するけれども、代車料等については証拠がなく、右主張には首肯することができない。
三 過失相殺
前記二の原告の損害額一一五万三六〇〇円から、前記一で認定した割合に基づき過失相殺による減額をすると残額は九二万二八八〇円となり、被告会社の損害額六一万円から過失相殺による減額をすると残額は一二万二〇〇〇円となる(円未満切り捨て。以下同じ。)。
四 弁護士費用
本件事案の性質、認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告の弁護士費用は九万円、被告会社の弁護士費用は一万円とするのが相当である。
五 以上のとおりであって、原告の被告会社及び被告北野に対する請求は一〇一万二八八〇円及びこれに対する平成八年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないからいずれもこれを棄却し、被告会社の原告に対する請求は一三万二〇〇〇円及びこれに対する平成八年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 石原寿記)